2. 文字の発音を覚えよう
(1) 発音の原則
ロシア語は原則的に、1つの文字に対して1つの音が対応します。このサイトにその一覧を表記するのはめんどいので、以下のリンクを参考にしてください。
http://rossia.web.fc2.com/pc/yazyk/nachalnyy/a01.html
気を付けなければならない点のみを挙げます。
(以下、[ ]で囲った部分はIPAで表記したものです。)
- е は「エ」ではありません。[je](イェ)です。эのほうが「エ」です。大変紛らわしいですが、「э」は基本的に、外来語由来の単語や口語にしか出てこない(例外:это, этот)ので、スペルミスをする心配はあまりないでしょう。
- у は日本語の「ウ」[ɯ] ではありません。口を丸め突き出して発音する[u]です。
- и は口をしっかり横に開きましょう。
- т は英語のtより日本語の「た」(の子音)に近いですので簡単です。「 [t]より歯音化された(dentalized)音になる」と説明されることもありますが、あんまり気にしなくても大丈夫でしょう。
- тとдはどちらも舌を上あごすれすれで発音します(舌の位置が高いということ)。
例えば「тя [t'a]」と「дя [d'a]」 は、「ティャ」「ディャ」ではなく、日本語の「チャ[tʃa]」「ジャ[ʑa]」のように聞こえます(舌が硬口蓋(後ろ側)に近づいているので、硬口蓋化している (palatalized)といいます)が、実際には、日本語の「チャ」「ジャ」よりもう少し口を横に引いて舌の位置を高くしつつ、舌先を歯のあたりにくっつけて出す音です。まぁあんまり気にしなくてもいいですが。 - з [z] は、с [s]をそのまま有声音にしたもの(にごらせたもの)です。日本語のザ行の子音 [dz] ではありません。舌先を上あごにつけないということです。
※英語の発音を習うときにも「cards」[dz] と「cars」[z] の発音の違いというのを教わったかもしれません。その違いを思い出しましょう。
詳しくはこちら→ https://youtu.be/OxNukzqC5nc - вは[b]ではありません。[v]です。唇を噛んで発音する音ね。
ちなみに、ロシア語ではワ行の音(w)がないので、wをвで代用して表記します。例えば Wikipedia は Википедия です。 - 日本語の「ん」は [n] [m]など様々な音を含んでいます。例えば「あんぱん」の「ん」は実は[m]の音で発音していますね。
「н」を[m]などで発音しないように注意しましょう。ま、これもあんまり気にしなくていいです。
※そういえば、新橋駅のローマ字表記が「Shimbashi」になるなど、最近は日本語のローマ字表記でもしっかり[n]と[m]を分ける動きがあるみたいですね。 - 日本語のラ行は [ɾ](弾き音 tap)(唇を軽く歯茎の付け根に当てる音)、英語のrは [ɹ](接近音 approximant)(上あごに舌をつけないで出す音)、ロシア語のрは [r] (ふるえ音 trill)(巻き舌) と、微妙にすべて違うので注意しましょう。
ただロシア語の「р」は日本語のラ行の子音で代用できます。巻き舌にしなくたっていいです。 - ロシア語の「л」のほうが発音が難しいとネイティブも言っていました。しっかり舌先を歯茎につけて発音します。英語より口の中を広くとって響かせるとかなんとか。IPAだと [ɫ] となって、やっぱり微妙です。
- 「ё」は特殊な文字です。「е」のとても近い親戚と思って大丈夫です。アクセントが常につきます(だからёにアクセント記号は振られません)。
- 「ы」は「ウとイの中間音」と言われたりします。「舌を下げて出す【イ】」とか「ペンを口にくわえて出す【イ】」とか「腹を殴られたときに出す【イ】」とか説明は様々ですね。
- 「й」は「短いイ」。基本的に母音と組み合わせて使います。мойとか。
- 「х」は、[k]や[g]の舌の位置(のどの奥のほう)で、摩擦音(fricative)として出す音です。「クーーーーーー」と長く言い続けると、最後のほうの余韻が「х」の音になります。あるいは「シャンハイ」の「ハ」の子音とかですね。
- 「ш」「ж」は「シャ」「ジャ」とは少し違い、反舌音(retroflex)です。舌の真ん中をへこませるとか、スプーンみたいにするとか、舌を真ん中に寄せるとか、いろんな説明があります。まぁ難しいです。
- 「щ」のほうが日本語の「シ」(sh)に近いかもしれません。「しー」と言うときに特に近くなります。ただ、昔は「シチ」と発音していたり(←「шт」がつながった)、ラテン文字転写で「sch」と書かれたりしてたので、「フルシチョフ(Хрущёв=フルショーフ)」「ボルシチ(борщ=ボールシ)」など、日本語では「シチ」と転写されることが多いですね。
- 「ч」はやや強めの「チ」。「舌打ちのチ」とか、日本語より舌が奥とか、口を丸めるとか、いろいろ説明があります。
(2) 発音の変化
- 母音の発音変化
- アクセントのある母音は、はっきり、長く発音しましょう。「長く」というところが特にポイントです。книга(本)は「クニガ」より「クニーガ」です。「ロシア語訛り英語講座」というYouTube動画も参照してください。 https://youtu.be/U9Hx4dP4fgQ
- アクセントのない「о」は「ア」っぽく読みます。語尾に来たりすると特にあいまい母音 [ə] になりますが、まぁアクセントがなければ全部「ア」でいいです。例:Москва́:マスクヴァー
- アクセントのない「е」「я」は「イ」っぽく読みます。ただし語末に来ると「イェ」「ヤ」のままでもよかったりします。例:Япо́ния:イポーニヤ
- アクセントのない「а」「у」「ю」「и」「ы」は別にそのまま読んで大丈夫です。
- アクセントのある母音は、はっきり、長く発音しましょう。「長く」というところが特にポイントです。книга(本)は「クニガ」より「クニーガ」です。「ロシア語訛り英語講座」というYouTube動画も参照してください。 https://youtu.be/U9Hx4dP4fgQ
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② 子音の発音変化
- 「子音のあとに
「ь」が来ると軟子音になる」、などとわけのわからないことが書いてありますが、別に「ь」は小さな「イ」をつける感じとして読めばいいのでその子音を読みます(「舌を少し上げる」とか「口を横に引く」と言ってもいいでしょう)。 - 軟子音と硬子音の概念は最初は無視していいです。「ь」の意味も深く考えず、「小さなイ」として覚えておけばよいです。
※ - 「子音のあとに
- 大事な規則①:語末の 有声音(にごった音)→無声音(にごらない音)
例:「друг」は「ドルーグ」ではありません。語末の子音は濁らなくなるので、「ドルーク」です。 - 大事な規則②:有声音+無声音 → 無声音+無声音
例:「водка」は「ヴォードカ」ではありません。「дк」が「有+無」の組み合わせなので、「無+無」になって、「ヴォートカ」となります。 - 大事な規則③:無声音+有声音 → 有声音+有声音
さっきの逆です。例:「футбол」は「フトボール」ではありません。「тб」が「無+有」の組み合わせなので「有+有」になって、「フドボール」です。
※ただし、常に有声の子音(м, рなど)と、в が来ても前の子音は無声のままです。вについては忘れやすいので注意。
例:свет:スヴェート (× スフェート)
①
(3)おまけ) 硬母音字と軟母音字
硬母音の字 | а(ア) | ы(ウィ) | у(ウ) | э(エ) о(オ) |
軟母音の字 | я(ヤ) | и(イ) | ю(ユ) | е(イェ) / ё’(ヨ) |
硬母音というのは要するに「ヤ行じゃないやつ」、軟母音というのは「ヤ行のやつ」です。ただしыとиは直感的にどっちに来るかわかりづらいので注意しましょう。
「ア(а)とヤ(я)」のように、それぞれペアを作ります。ただし、「э」は基本的に出現しない文字なので、「е」は「ё」とともに、「о」とペアを作ります。
このペアの概念は最初は覚えなくてもいいんですが、最後に見返したときに「ああそうだったのか」と納得がいく仕組みになっています。